認知症よもやま話

認知症よもやま話

こんにちは、あいせい紀年病院 老年科部長 服部です。このコーナーでは認知症についてさまざまな切り口でお話をしていきたいと思っています。

その1認知症って何?

まずは「認知症って何?」「忘れてしまうこと?」から。
認知症というと「もの忘れがひどくなることかなあ」となんとなく思われている方が多いと思います。実際、当院でも認知症専門外来のことを「もの忘れ外来」と名乗っています。しかし、認知症と忘れやすさとは必ずしも同じではありません。それでは「認知症」とは何でしょうか。認知症はかたくるしい表現ですが、以下のように定義されます。(※1)

 

認知症とは

  1. 脳にはっきりとした障害がある。心因だけでは起こらない。また加齢、つまり単に年を取ったということだけでも起こらない。
  2. 記憶だけでなく、言葉の障害などの複数の認知機能が障害される。それらの障害は生まれつきでなく、成人になってから起こったものである。認知機能はどのようなものかに関しては、DSM5という診断基準では6つの領域が示されています(※2)。
  3. 慢性に経過する。急に始まったり、消えたりしない。大体は年単位で変化する。以前にくらべて、家庭や社会での生活機能が落ちている。たとえば、仕事のミスが多くなる。道に迷う。料理をうまく作れない。車の運転が危なくなる。薬や金銭管理ができないなどです。認知機能の低下があっても生活機能が落ちていない場合は認知症とはせず、軽度認知障害(MCI)と呼ばれます。
  4. 単独の「疾患」ではなく、様々な原因が引き起こす「病的な状態(症候群)」。たとえば「風邪」は熱がでたり、喉が痛くなったりした状態ですが、原因はウイルスだったり、アレルギー反応だったりと原因は様々です。このように原因は様々だけど、いくつかの共通する症状や障がある状態を症候群といい、「認知症」もその一つです。
  5. 従って、認知症と分かっても、その原因となる疾患を見つけることがその後の治療や、生活支援には欠かせません。原因となる疾患は、脳血管障害、脳炎などたくさんあります。アルツハイマー型認知症は「認知症」という言葉がついているので紛らわしいですが、脳に一定の変化があることが確かめられている疾患です。

以上が認知症の定義です。できるだけ正確に説明しようとしたので、難しい表現になってしまいました。申し訳ありません。
さらに、人によっては、うつや幻覚などの精神症状や、徘徊などの行動異常が出ることあります。これをBPSDといいます。BPSDはすべての認知症のひとに伴うわけではありませんが、介護を難しくする大きな要因です。場合によっては入院治療が必要となります。BPSDについては今後、このコーナーでお話していきたいと思います。では今回はこのくらいで。続きをお楽しみに。

 

※1 参考文献

1. 目黒謙一:血管性認知症 第1章認知症の概念。ワールドプランニング、東京、p13-14
2. 日本精神神経学会監修:DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル。神経認知障害群。医学書院、東京、p583-584

 

 

認知機能の6つの領域 ※2 DSM5による認知症の定義

以下のような状態があると「認知症」を疑います。

 

注意力、集中力

いつもの仕事や家事に以前よりも長く時間がかかる。誤りが見つかるようになる。周りに気をとられてすぐに気が散るようになる。

実行機能

周りの人に頼らないと家事や仕事の段取りができなくなる。複雑の処理を同時にするような仕事が困難になってきたり、訪問客や電話によって遮られた仕事を再び始めることが難しくなってくる。整理、計画、意思決定に余分な努力を要するため、疲れが増えたと不平を言うこともある。

学習と記憶

最近の出来事を思い出せない。テレビドラマの筋が途中でわからなくなる。同じことを何度も聞く、話す。

言語

言葉を思い出せない。物の名前よりも「あれ」とか「それ」などの代名詞を頻繁に使う。症状が進むと、より親しい友人や家族の名前すら思い出せない。

知覚-運動

見えているものが何なのかわからない。どこにいるのかわからない

行きなれた場所で迷う。駐車が以前ほど正確ではなくなる。重度では自宅内のトイレや台所への移動が著しく困難になる。影や明るさの低下によって知覚が変化するので、しばしば夕暮れ時にさらに混乱する。

社会的認知

まわりへの気遣いや気持ちを察して常識的な行動をとることが困難となる

葬式で突然笑い出すなど許容できる社会的範囲から明らかに逸脱した振る舞いがある。些細なことで急に怒り出す。政治的、宗教的、性的な話題についての社会的基準に無神経になる。本人はこれらの変化に対して自覚がない。

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