診療案内

認知症よもやま話

今回は2023年12月20日保険適応が決定した、新しいアルツハイマー病治療薬レカネマブ(レケンビ)についてお話します。

その4アルツハイマー病治療薬レカネマブ(レケンビ)について

レカネマブはどういう薬?

今回、発売となったレカネマブ(商品名:レケンビ)は脳内にあるアミロイドβ蛋白に対する抗体です。といわれても何のこと?という感じですね。まず、アミロイドの話をしましょう。アルツハイマー病では、脳の中にこのアミロイドβ蛋白というものが異常に蓄積してしまう病気です。そこから、老人斑や神経原線維変化といった異常な構造物が脳内に広がり、神経細胞が死んでいきます。その結果、認知症を発症するのがアルツハイマー病の特徴です。これは、他の認知症疾患ではみられない、アルツハイマー病だけの特徴なのです。アミロイドはPET検査あるいは脳脊髄液の採取によって検査できます。
レカネマブは、このアミロイドβ蛋白を脳内から除去する働きがあります。それにより病気の進行を抑えることができます。従来の薬剤にはない、病気の原因に直接作用する画期的な薬剤です。一方で、レカネマブには次のような特徴があります。

ア. アルツハイマー病以外にはまったく効果がない。
上に書いたように、レカネマブはアミロイドβ蛋白を脳内から消し去るための薬であり、それ以外の作用はありません。ですから、アミロイド蛋白が溜まらない前頭側頭型認知症やレビー小体型認知症に対してはまったく効きません。「認知症薬」とされていますが、あくまでもアルツハイマー病にのみ効果がある点にご注意ください。

イ. 軽度の認知症か、アルツハイマー病に基づく軽度認知障害(MCI)のみ適応がある。
アミロイドβ蛋白が蓄積したあと、神経細胞が死んでいき、脳の働きが悪くなって認知症に進みます。したがって、神経細胞がたくさん死んだ後では、アミロイドを減らしても効果がありません。病気の始まりの時期から始めないと意味がないわけです。進行した認知症の人については残念ながら、使用しないことになっています。

 

効果と副作用については?

レカネマブはアルツハイマー病の原因を取り除く作用がありますが、これで完全に病気がよくなる、あるいは認知機能が改善して元の状態に戻るということではありません。その点、誤解のないようにしてください。
レカネマブ承認のために行われた臨床試験では、2週間に1度、18ヶ月間にわたるレカネマブの点滴投与により、プラセボ(レカネマブの投与なし)と比べて、記憶、見当識、判断力その他の認知機能低下が27%抑制されましたとされています。これは、症状の進行をおよそ7.5カ月遅らせる効果に相当します。また、自立して生活する能力についても、プラセボと比べて37%の臨床的有効性が認められました。確かに効果はありますが、完治とはいえませんね。
一方で、副作用についても気をつけないといけない点があります。臨床試験でもっとも多かった副作用として、MRIで異常がみつかるアミロイド関連画像異常「ARIA」があります。「アリア」と読みます。ARIAには大きく分けて、脳の血管の周りに水が溜まる浮腫(ARIA-E)と、脳内の微小出血(ARIA-H)の2種類があります。処方された方の12.6%にARIA-E、17.3%にARIA-Hが認められました。これらは、脳内の血管に蓄積していたアミロイドβ蛋白が消失して血管壁にすき間ができることで引き起こされると考えられています。大半は、無症状で経過しますが、0.6〜0.8%の頻度で、痙攣や意識障害などの重篤な副作用を引き起こすことがあります。

 

レカネマブ治療はどのようにする?費用は?

レカネマブの治療は、体重1㌔あたり10ミリグラムを2週間に1回、1時間程かけて点滴します。使用期間は原則1年半となり、その後は医師の判断となります。レカネマブは治療を受ける人の体重によって投与量が変わります。体重が50キロの人の場合、1年間使用した費用は、自費の場合298万円となっています。しかし、保険が適用される上、国の「高額療養費制度」により実際の自己負担は70歳以上の一般所得層で年間14万4000円が上限となります。

 

レカネマブ治療はどこで受けられる?

すべての医療機関でレカネマブ治療を受けられるわけではありません。
レカネマブ治療に精通した医師が勤務し、MRI(磁気共鳴画像)検査を治療の開始前と治療中に定期的に実施でき、副作用が出た場合、すぐに治療可能な設備が必要となります。厚生労働省のガイドラインでは、投与できる医療機関を限定され、初回投与から6カ月までは、日本神経学会や日本老年医学会などの専門医が複数いて、MRI(磁気共鳴断層撮影)を備えていることが定められています。
当院の周辺では、大府市にある国立長寿医療研究センターで治療を開始するようです。ホームページを見てください。それ以外の医療機関についてはまだはっきりしていません(2023年12月時点)。
あいせい紀年病院は今のところ、レカネマブ治療を行うことはできません。アミロイド検査が実施できないことや副作用への対応ができないためです。当院受診の患者さんで、レカネマブ治療を希望される方や、適応のある方へは随時、周辺施設の情報を伝えていきます。

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